ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「ヴァルトはね、この世に生を受けてからというもの、絶えず異形たちに命を狙われ続けているんだ。それこそ、ディートリンデの胎内に宿った、その瞬間からね」

 言いながらも、龍のあざに人差し指をついと滑らせる。リーゼロッテの口からはたまらず吐息がもれ、その眉間は苦し気に寄せられた。

「今でこそ異形の者はおいそれとヴァルトに近寄れないけど、子供の頃はひどかったなぁ。寝ても覚めても気の抜ける時間は一時もないんだ。ヴァルトが死にそうな目にあったのは、一度や二度の事じゃないよ」

 まるでたのしい思い出話をしているかのように、ジークハルトはくすくすと笑う。

「どんなに周囲が守ろうにも、異形の数には勝てないからね。ちょっとした油断で大惨事さ」
「どうしてそんな……」
「どうしてって? それは()()()()()()()からだよ。龍の託宣は絶対だ。今の今まで一度だって違えられたことはないし、龍から託宣を受けた者は、それを果たすまで死ぬことすら許されない。例え、死んだほうがましって目にあおうともね」

 リーゼロッテは絶句した。王城でハインリヒ王子から聞いた事と言えば、自分の受けた託宣がジークヴァルトとの婚約だということだけだ。そして、王子はこうも言っていた。

「わたくしが異形に狙われるのは、ヴァルト様の託宣の相手だからと……」
「ああ、そうだよ。異形たちはフーゲンベルクの血筋を恐れているからね。だから、こうやって君とヴァルトが近づくと、異形の者は焦って騒ぎ出すのさ」

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