ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「聞いて、リーゼロッテ」

 ジークハルトはそれまでやわやわと動かしていた手を止めて、リーゼロッテの瞳を覗き込んだ。やっていることにそぐわない穏やかな顔つきに、リーゼロッテはジークハルトの真意が測れない。

 いつもと変わらぬ守護者の笑顔。痛む手首。やさしげな声。鳴りやまない部屋の騒音。体を這いまわる怪しい手つき。溢れて止まらない涙。異形たちの叫び声。
 ぐちゃぐちゃで、何が何だかもうわからない。

「ヴァルトが受けてきた恐怖はこんなものじゃなかったよ。ねえ、可哀そうだと思わない?」

 そう言いながら足をまさぐっていた手をスカートの中から引き抜き、リーゼロッテの腹の上に移動させる。ドレスの上から手のひらを当てて、ジークハルトは慈しむようにその腹をなでた。

「でも、リーゼロッテが託宣の子供をここに宿せば、ヴァルトはその運命から解放される。ヴァルトを救えるのは、リーゼロッテ、君だけなんだよ」

 やさしく腹をなでながら、ジークハルトは伺うようにリーゼロッテを覗き込んだ。リーゼロッテの瞳が大きく見開かれる。溢れた涙が膜を作って、緑に輝くガラス玉のようだ。

「ごめんね。でも、少しでも早くコマを進めたいんだ。ここまできといて今さらだって、自分でもそう思うんだけど……」

 悪びれない笑顔のままジークハルトは再び手を下にすべらせた。その手はそのままスカートの中に入り込み、怪しい手つきでさらに奥へと進み始めた。

< 619 / 678 >

この作品をシェア

pagetop