ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 エッカルトは執務室の扉の前で片膝をつき、手に持った鍵の束の中からひとつを選んで、目の前の鍵穴へと差し込んだ。

 かちゃりと鍵が回る小気味いい音がする。刺した鍵をそのままにエッカルトは扉のノブに手をかけてゆっくりと回してみた。ガチガチと抵抗を受け、ノブは回らない。

 もう一度刺した鍵を反対方向に回すと、再びかちゃりと音がした。同じようにノブを掴んで回すが、ノブは軽く回るだけで扉は開かなかった。

「鍵はかかっていない……?」

 後ろに立ってその様子を見守っていたマテアスが息を飲んだように言った。エッカルトは静かに立ち上がると、頷いてマテアスの言葉に同意した。

「お前の言うように、この扉は初めから鍵はかけられていないようだ」
「確かに……目の前で扉がひとりでに閉まっただけで、鍵がかけられる音はしませんでした」
「そうとなると内側に何か物が置かれているかだが……」

 公爵家の屋敷の扉は全て、部屋の方向に扉が開く内向きのドアだった。賊が侵入してきた際に、バリケードを作って扉を開けさせないようにするためだ。

 しかしジークヴァルトがそんなことをする理由がない。いくらリーゼロッテと二人きりになりたいと思ったとしても、このような強硬手段に出るとは到底考えられない。

 こんな面倒なことをするくらいなら、自室にリーゼロッテを連れ込んだ方がよほど手っ取り早い。その方が異形たちの横やりが入らないからだ。

< 620 / 678 >

この作品をシェア

pagetop