ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「マテアス、打ちひしがれるのは万策尽きてからだ。己にできることを放棄して、お前はすべてを諦めるつもりか?」

 エッカルトの厳しい口調にマテアスははっと顔を上げた。ぎゅっと唇をかみ、眉根を寄せる。

「……上の階からロープで降りて、窓から執務室に入れないかやってみます。その間、廊下側から壁を壊す手はずをお願いできますか? それと、念のため、周辺の人払いもお願いします」
「承知した。すぐに手配を……」

 エッカルトが頷こうとしたその時、執務室の中がドンと揺れた。中に残っていた異形たちがまるで混乱したように騒ぎ始めている。

 エッカルトとマテアスは思わず顔を見合わせた。

 四の五の言っている時間はない。それ以上言葉を交わすことなく、互いに反対の廊下へとふたりは足早に歩み去っていった。

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