ふたつ名の令嬢と龍の託宣
それに今回の件は、誰にでも任せられる事態ではなかった。真実はどうあれ、公爵家の当主が婚約者とふたりきりで密室に籠城しているのである。大ごとにはできないし、信頼のおける者にしか協力を仰ぐことはできなかった。
その点、ヨハンは公爵家の傍系である子爵家の長男で、マテアスにとっていわゆる幼馴染の間柄だ。身分差はあるが、ヨハンは身分を笠に着るでもなく実に誠実な男だった。
(近辺に人影はなし……と)
ロープを伝って慎重に降りながら、眼下の庭先にくまなく視線を送る。執務室前の裏庭は人払いをして誰も近寄らないように指示してあった。とにかく秘密裏に事を進めなくてはならない。
「マテアス、大丈夫か?」
上を見上げると心配性の幼馴染が手すりから身を乗り出してのぞき込んでいる。
ヨハンは強面の大男のくせに、気がやさしく繊細な心の持ち主だった。剣の腕は豪胆で力任せなのに、趣味は刺繍と編み物というよくわからない男でもあった。
「問題ありませんよ。ヨハン様、あなたは周囲の警戒を怠らないで……」
言い終わる前に執務室からひときわ大きな音が響いた。異形たちの動揺がびりびりと伝わってくる。
「マテアス、下では一体何が……」
「ですから、今から、それを、確かめに、行くんです、よっ」
トントンと壁を蹴りながら、一気に下の階まで下降する。ガラスを避けて、マテアスは執務室の窓枠に足をかけた。
その点、ヨハンは公爵家の傍系である子爵家の長男で、マテアスにとっていわゆる幼馴染の間柄だ。身分差はあるが、ヨハンは身分を笠に着るでもなく実に誠実な男だった。
(近辺に人影はなし……と)
ロープを伝って慎重に降りながら、眼下の庭先にくまなく視線を送る。執務室前の裏庭は人払いをして誰も近寄らないように指示してあった。とにかく秘密裏に事を進めなくてはならない。
「マテアス、大丈夫か?」
上を見上げると心配性の幼馴染が手すりから身を乗り出してのぞき込んでいる。
ヨハンは強面の大男のくせに、気がやさしく繊細な心の持ち主だった。剣の腕は豪胆で力任せなのに、趣味は刺繍と編み物というよくわからない男でもあった。
「問題ありませんよ。ヨハン様、あなたは周囲の警戒を怠らないで……」
言い終わる前に執務室からひときわ大きな音が響いた。異形たちの動揺がびりびりと伝わってくる。
「マテアス、下では一体何が……」
「ですから、今から、それを、確かめに、行くんです、よっ」
トントンと壁を蹴りながら、一気に下の階まで下降する。ガラスを避けて、マテアスは執務室の窓枠に足をかけた。