ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 苦しいくらいに抱きしめられ、リーゼロッテは大きく目を見開いた。やさしく背中をさすられて、こわばった体から力が抜けていく。

「ふ……ぇ……ヴァルトさま……」

 大きな体に抱きつきながら、リーゼロッテはボロボロと涙をこぼした。背中に回した手がジークヴァルトのシャツをぎゅっと掴む。

 しゃくりあげるリーゼロッテの背中を、ジークヴァルトの手が何度も何度もやさしくなでていく。

 ジークヴァルトの体から弾き飛ばされたジークハルトが、その様子を天井すれすれの場所から見下ろしていた。その表情は相変わらずにこやかだ。

(薄皮一枚、といったところかな)

 守護者としてのジークヴァルトとの繋がりは、かつてなく希薄な物になり果てた。こんなことをしでかしたジークハルトへの信頼など、ジークヴァルトの中ではもはや欠片もないだろう。

 それでも守護者としての絆を完全に断ち切ることはできなかったようだ。

(まあ、結果は上々だね)

 嵐が去った跡のような部屋の中を一瞥してから、ジークハルトは天井を抜けてするりと消えていく。


 シャボン玉がはじけるような気軽さで、執務室を包む大きな力は、ぱちんと消えて無くなった。

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