ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
「みな様、よろしいですか。この位置に一点集中で力を注いでください。集めた力で執務室を包む力が弱まったところで、物理的に壁を壊しにかかります」

 公爵家の屋敷は石造りの頑丈な造りだが、この執務室をはじめ主要な部屋はさらに強固に設計となっていた。賊に対する籠城用でもあったが、逆に敵に籠城された時の対策として、壁のごく一部が弱く作られていた。
 その場所がどこにあるのかはその部屋によって様々で、その存在と位置を知る者はごく限られている。

 マテアスの指示の元、皆が廊下の壁に向かって半円状にずらりと並ぶ。
 エマニュエル、エッカルト、マテアス、ユリウス、エーミールの順に並び、各々がマテアスの指示した壁の一点へと手をかざした。

 ヨハンだけがマテアスの背後に立ち、その手に大きな鉄製のハンマーを携えている。
 ここにいる者はみな力ある者だったが、ヨハンは中でもいちばん力が弱かった。ハンマーに力を通して待機しているものの、ヨハンの役目はどちらかというと物理破壊要員だ。

「さあ、みな様、準備はよろしいですか。持てる力を持って、一点集中でお願いいたします!」

 一斉に力が注がれた。
 様々な色加減の青が混ざり合う。やがてその青は溶けるように、純度の高い白金の力となってその場で過密な渦を巻いた。

「……っく」

 誰ともなく苦痛の声が漏れる。合わさった力はその一点において相当のものになっていた。
 しかし力の壁は微動だにしない。時折わずかに揺らめいて、高速の力を受け流している。

(あまり長くはもちそうにありませんね……)

 みなの表情を見やり、マテアスは一か八かの勝負に出た。みなの力が最高潮に集まっている今を、逃すわけにはいかなかった。

「さあ、ヨハン様、出番ですよ!ここに目がけて力の限りぶちかましてください!」

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