ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 うおりゃぁぁぁ、とヨハンがその合図で振りかぶっていたハンマーを振り下ろす。

 ハンマーが壁に叩きつけられようとしたほんの一瞬前、執務室を包んでいた強大な力が何の前触れもなくぱちんとはぜた。

「あ」という、誰からか漏れた声の直後に、ドゴっ、というハンマーがめり込む鈍い音が廊下に響いた。壁に手をかざしたままの格好で、固まったまま誰もが動けない。

 しんとした静寂に包まれたその場に、きぃ……という密やかな音が響いた。

 音がした方向に首を向けると、みなが並ぶ廊下の少し先にある執務室の扉が、ひとりでにゆっくりと開いていった。

 かと思ったら、目の前の壁、ヨハンがハンマーを振り下ろした場所が、ガラガラと大きな音を立てて一気に崩れ落ちた。ぱらぱらと細かい砂粒が舞い上がり、ゴホゴホと口元を抑えながら一同は後ずさった。

 砂煙が落ち着いてきたその場所をみやると、人ひとりが通れるほどの穴が、ぽっかりとアーチ状に開いている。この壁は一点を狙って外力をかければ、キレイに穴が開く設計なのだ。

「………………」

 微妙な空気が流れる中、ヨハンが目の前の壁の穴と開いたドアを交互に見やり、申し訳なさそうにぽそりとつぶやいた。

「マテアス……もしかして、壁に穴開けた意味、なかったんじゃ……」

 この場にいる誰もが思ったことを口にする。

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