ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そんなリーゼロッテをジークハルトはニコニコと見つめている。

 生まれながらに婚姻の託宣を受けた者たちは、幼いころから共に過ごして、自然と、それもかなり若いうちに、そういう関係に至っていくのが当たり前のことだった。

 守護者として幾人もの託宣者の傍らで過ごしてきたジークハルトにしてみれば、リーゼロッテとジークヴァルトのつかず離れずの関係の方が珍妙に見えて仕方がない。

『リーゼロッテはさ、自衛のためにちゃんと正しい知識を身につけた方がいいよ? でないとまた足元を掬われかねないし』

 お 前 が 言 う な、という言葉がのど元まで出かかって、リーゼロッテはそれを脳内で叫ぶにとどめた。流されるままに異世界令嬢生活を続けてきたが、ジークハルトが言うことももっともだと思ったからだ。

 その時不意に腕を引かれて、ぐいと立ち上がらされた。驚いて見上げると、息を弾ませたジークヴァルトに抱えるように抱き込まれていた。
 ここまで走ってきたのだろうか。その額には汗が滲んでいる。

「お前、性懲(しょうこ)りもなく……」

 瞳はジークハルトに向けられていた。その視線だけで人を射殺せそうだ。

『カークに呼ばれたにしても、遅すぎじゃない? ジークヴァルト』

 そこに反省の色はなさそうだ。楽し気に笑う守護者は、本当にぶれないとしか言いようがない。

『そんなに睨まないでよ。今のこの体じゃ、リーゼロッテの髪の毛一本すら動かせないよ。それに、ヴァルトだって同じことを繰り返すほどマヌケでもないだろう?』
「ヴァルト様……」

 リーゼロッテは気づかわし気にジークヴァルトを見上げた。

『まあ、とりあえずは一件落着、っていうことで』

 ジークヴァルトにぎろりと睨みつけられながら、満面の笑みのままジークハルトはふわりと浮き上がった。

『安心してよ。当分、リーゼロッテには近づかないから。まあ、そんなに心配ならカークをはりつけとけば?』

 そう言い残すとするりと天井から出ていった。

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