ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 守護者は他の者には感じ取ることができない。いかに力ある者を護衛につけようと、ジークハルトのちょっかいに対応できない状態だ。

 現にそばで護衛をしていたエーミールは異変に全く気付いていなかった。突然息を切らしてやってきたジークヴァルトに、何事かと驚いていたくらいだ。

 しかし、なぜだかカークにはジークハルトが見えているらしい。いきなりカークの思念が飛んできて、ジークヴァルトはやりかけの仕事を放り出し、慌ててリーゼロッテの元へと駆けつけたのだ。

「カークがヴァルト様を呼んでくれたのね。ありがとう、カーク」

 リーゼロッテが笑顔を向けると、カークは照れたようにぽりぽりとひげ面の頬をかいた。

 自分を抱き込んだまま天井を睨んでいるジークヴァルトをリーゼロッテは見上げた。
 あの日以来、ジークヴァルトと会話らしい会話はしていない。久しぶりのジークヴァルトの温もりに、胸の奥にじりじりとしたものを感じた。

 あの一件がジークヴァルトの隙から始まったのだとしても、悪いのはジークハルトであってジークヴァルトではない。決してジークヴァルトを責めているわけではないことを、リーゼロッテはわかってほしかった。

 それにジークハルトの言っていたことが、ずっと心に引っかかっている。ジークヴァルトが生まれて此の方、異形の者に狙われ続けているということだ。

「ヴァルト様は……おつらくはないですか……? その……ヴァルト様は絶えず異形に狙われていると……」

 リーゼロッテはためらいがちにそう口にした。
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