ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークハルトの言うことを鵜呑みにしていいものかわからない。自分が口出しすべき事ではないのかもしれない。だがリーゼロッテは、何も聞かなかったことにはできなかった。

 ジークヴァルトは普段通りの無表情に戻って、静かにリーゼロッテに視線を向けた。

「……あいつの言っていたことは気にしなくていい」

 そう言いながら、腕の中のリーゼロッテをそっと体から引き離す。

 ジークヴァルトはサロンの大きな窓の外をみやってぽつりと言った。

「今、オレがオレであることに、何の疑問も(いきどお)りもない」

 その言葉に迷いや嘘は感じられなかった。

「……ですぎたことを申し上げました」

 リーゼロッテは小さな声でうつむいた。

 ジークヴァルトはリーゼロッテに向き直ると、その髪に手を伸ばしかけて、途中で止めた。中途半端に伸ばされた手はぎゅっと握られて、それからゆっくりと下に降ろされていく。

「ダーミッシュ嬢……もし、ここにいるのがいやだったら……もう領地に戻ってもいいぞ」

 その言葉にリーゼロッテは驚いて顔を上げた。久しぶりに真っ直ぐ見る青い瞳にぶつかって、咄嗟(とっさ)に口が開いていた。

「いいえ! いいえ、ヴァルト様、わたくし帰りませんわ! きちんと力の制御ができるようになるまで、こちらにおいてくださいませ!」

 ジークヴァルトのせいで傷ついたりはしていないのだ。それが伝わるようにと、リーゼロッテは緑の瞳でその瞳をじっと見つめた。

「……わたくし、王妃様のお茶会でジークヴァルト様に見つけていただいて、本当によかったと思っております。王城に行かないまま誕生日を迎えていたら、わたくしそれこそおかしくなっていたかもしれませんもの」

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