ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 足早に執務室へ戻ろうとするジークヴァルトの背を追って、マテアスはその少し斜め後ろをついていく。
 サロンの入口でエーミールが何か言いたげに立っていたが、マテアスは目礼するにとどめた。エーミールはマテアスを毛嫌いしている。何を言っても難癖(なんくせ)をつけられるのが落ちだった。

「旦那様、一体どうしたと言うのです? いきなり執務を放り出して飛び出していくなんて。毎回探して回るこちらの身にもなってくださいよ」

 無言で歩くジークヴァルトに声をかけるが、返事はない。眉間にしわを寄せているところを見ると、あまり機嫌はよろしくなさそうだ。

 ジークヴァルトを見つけた先に案の定リーゼロッテがいたので、マテアスはまた何かあったのかとも思ったのだが、特にリーゼロッテに変わった様子はないようだった。

(ひとりで抱え込む癖はあいかわらずか……)

 はぁ、というマテアスの大げさなため息が聞こえなかったふりをして、ジークヴァルトは無言で歩を進めていく。

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