ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 その様子にはっとしたマテアスは、慌てたようにジークヴァルトに駆け寄った。

「ヴァルト様、もしかしてそこに守護者がいるんですか?」

 ジークヴァルトが睨む空間に目をやるが、マテアスは何も感じ取ることはできない。しかし、あの日以来リーゼロッテを避けていた(あるじ)が、突然その彼女の元に駆け付けたのだ。

(てっきり顔を見ない日々に耐えきれなくなって、突発的に会いに行ったんだと思ったのに……)

 つい先日あんな騒ぎがあったばかりで、どうしてこんな楽天的な考え方をしたのかと、マテアスはぎゅっと眉根を寄せた。

 あれ以来、力ある者が必ずリーゼロッテの護衛につくようになったので、異形のトラブルならジークヴァルトが側にいなくとも大ごとにはならないだろう。しかし、守護者に対しては正直お手上げ状態だ。

「いや、問題ない」

 ジークヴァルトはそう言って、再び廊下を進みだした。

 マテアスは何か言いかけようと口を開いたが、小さく息をついてからその後ろ姿を追った。不器用な(あるじ)が変な方向にこじらせているように思えてならない。

(早く婚姻の託宣が降りればいいものを……)
 そうすればすべてがうまくいく。

 マテアスは現状にもどかしさを感じながら、執務室までの廊下を無言で歩いて行った。

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