ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテにとってダーミッシュ家は実家も同然だ。養子なのは事実だが、そのように言われては家族を侮辱されたように感じてしまう。

 聞きとがめたようなリーゼロッテの声音に、エーミールはふたたびやさしい笑顔を向けた。

「ふっ、あなたは噂に違わぬ妖精のような方だな。可憐で儚げで慈悲深い。ジークヴァルト様が大事にされるのも頷けるというものだ」

 やさし気な口調の中に馬鹿にしたような響きを感じ取って、リーゼロッテは無言で瞳を伏せた。

(なんだろう……この人、好きじゃないかも……)

 エーミールは今までリーゼロッテの周りにはいなかったタイプの人間だった。見た目はすらりとした爽やかそうなイケメン貴公子だが、いけ好かないという表現がしっくりくる人物だ。
 無礼にならない程度に淑女の笑みを保っているが、これ以上会話を続けたいとは思わない。リーゼロッテは静かに微笑んだまま押し黙った。

 エーミールはそんなリーゼロッテの体から溢れる緑の力の輝きを見つめ、目を細めた。

(ジークヴァルト様の婚約者が、ダーミッシュ家の令嬢と聞いてどうなることかと思っていたが……)

 ダーミッシュ伯爵家は中立派の比較的歴史の浅い貴族だ。しかし中立と言っても、最近では下位の新興貴族との交流が深く、領民相手に教育を施しているという話をよく耳にする。

 平民は貴族に黙って従うもので、教育など必要ないと考えているエーミールにとっては、ダーミッシュ伯爵はやっかいな部類の貴族だった。

(だが、聞けばリーゼロッテ様は公爵家の血筋の方……ジークヴァルト様との釣り合いも十分とれる)

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