ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 初めてリーゼロッテに会った時の衝撃は今も忘れることはできない。
 この小さい身に纏わせた緑の力は、今まで目にしたことのない清廉な輝きを放っていた。ジークヴァルトほどの力強さはないものの、彼女こそ自分の主人の伴侶にふさわしいと、エーミールは大いに満足したのだ。

 リーゼロッテが瞳を伏せているのをいいことに、エーミールはぶしつけなほど彼女の姿をまじまじと観察した。

(それに、これを機にやり手のダーミッシュ伯爵をこちら側に取り込むにも悪くない)

 値踏みをされているような視線を感じ、リーゼロッテは小さく身震いした。
 自分を目の前にして、か弱いウサギのように震えているリーゼロッテに、エーミールは満足そうに薄く笑った。

「リーゼロッテ様、こちらにいらしたのですね。お迎えにあがりましたわ」

 不意にエマニュエルがサロンにやってきてリーゼロッテに声をかけた。エーミールに無言で礼を取ったあと、「さあ、参りましょう」とリーゼロッテを連れて出ていこうとする。

「これはこれは、ブシュケッター子爵夫人。相変わらずお美しいな」

 賞賛の声とは裏腹に、その声音には侮蔑の色がありありと伺えた。

 公爵家の使用人だったエマニュエルは、ブシュケッター子爵に見初められその妻となった。貴族社会ではうまくやったものだと陰口をたたく者も多くいる。エーミールもそう考えるひとりだった。

「まあ、若い令嬢たちのあこがれの的であるエーミール様にそのように言っていただけるなんて。お世辞でもうれしいですわ」

 意に介した様子もなく、エマニュエルは大人の笑みをエーミールに向けた。泣きぼくろのある瞳を妖艶に細め、誘うような唇が弧を描く。

 エーミールは鼻白んで、思わず赤くなってしまった顔をエマニュエルから咄嗟にそむけた。

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