ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「それにしても、エーミール様……リーゼロッテ様の護衛はそれと気づかれぬよう、旦那様から言いつかっていたはずですのに……どうしてこのようなことになっているのでしょう」

 エーミールの前で怯えるように目を伏せていたリーゼロッテを庇うように立ち、エマニュエルは毅然とした態度でエーミールの顔を見上げた。
 ぐっと言葉に詰まった後、エーミールは苦々しい顔をして開き直ったように言った。

「リーゼロッテ様の可憐な姿につい見とれてしまったのだ。おやさしいリーゼロッテ様に甘えて、お声がけをしてしまっただけだ。そうでしょう? リーゼロッテ様」

 エマニュエルにではなくリーゼロッテに向けられた声は、ともすれば甘く聞こえる台詞だった。しかしそこに心が伴っているようには到底思えない。
 うぶな令嬢ならばコロッと参ってしまうような表情と声音だったが、リーゼロッテは困ったようにエマニュエルに視線を向けた。

「……ともかく、この件は旦那様にご報告させていただきます。さ、リーゼロッテ様」

 この話は終わりだとばかりに、エマニュエルがリーゼロッテを促した。頷いたリーゼロッテはエーミールへと向き直り、優雅な所作で淑女の礼をする。

「それでは失礼いたします、グレーデン様」

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