ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「まあ!」

 リーゼロッテはぽかんと口を開けた後、おかしくなってつられるように笑ってしまった。

「ふふっ、そうなのね、わたくしの見立てもあながち間違っていないということね」

 久しぶりのリーゼロッテの笑顔に、エマニュエルはほっとした顔になる。エーミールもたまには役に立つなどと考えながら、リーゼロッテと見つめ合ってしばらくすくすと笑いあった。

「そうですわ、リーゼロッテ様。さきほどエラ様からお手紙が届いておりました」

 その言葉にリーゼロッテの笑顔がさらに明るいものとなる。
 エラは母親が過労で倒れて、実家のエデラー家に里帰り中だ。先日、容態は安定していると連絡がきていたが、今日の手紙にはさらに快方に向かっていると書かれていた。

 エラはダーミッシュ家に奉公に来てから、家に帰ることはほとんどなかった。考えてみたら、エラは今の自分と同じ年齢で親元を離れ、ずっとリーゼロッテに尽くしてきてくれたのだ。そう思うと、これを機にゆっくりと家族と過ごしてほしい。

「エラがもうしばらくお母様のそばにいられるように、ジークヴァルト様にお願いしようかしら」

 そう言ってリーゼロッテは瞳を伏せた。無意識にその手は袖の上から自分の手首に触れている。

 この手首の(あと)の訳を、エラにうまく説明できそうもない。実家でゆっくりしてほしいのは本心だったが、手首のあざが消えるまではエラに戻ってきてほしくないというのも本音だった。

「では、わたしから旦那様にお伝えしておきますね」

 エマニュエルはリーゼロッテの心情を察しつつ、それ以上のことは何も言わなかった。
 あの日を境に、リーゼロッテとジークヴァルトの間がぎくしゃくしているようだ。

(どちらかというと旦那様が一方的に避けておいでのようだけど……)

 エマニュエルは出そうになるため息をこらえて、冷めかけの紅茶に再び口をつけた。

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