ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
「そういえば、ハインリヒ様。今年の白の夜会でダンスはどうされるんですか?」

 王太子の執務室で紅茶を淹れながら、カイはハインリヒに声をかけた。書類に目を落としたまま休憩の合図にも反応しない王子に対し、何か気を引きそうな話題を探した結果、そんな質問になった。

「今年は誰とも踊らない」

 執務の手を止めるでもなく、眉間にしわを寄せたままハインリヒはそっけなく返した。

「あー、そーなんですねー」

 王子の不機嫌はいまだ続いている。一緒にいる時間の長いカイにしてみれば、この状況は鬱陶(うっとう)しいことこの上ない。

(特に昨日は最悪だったな)

 昨日はジークヴァルトも登城していて、男三人で一日中執務室にこもっていた。
 ハインリヒとジークヴァルトが眉間にしわを寄せながら、並んで執務を行う空間は重苦しくてどうしようもなかった。癒しが足りない。圧倒的に足りなさすぎる。

 リーゼロッテが王城に滞在していた頃はよかったとしみじみ思う。あの時はアンネマリーもいたし、カイにとってもいい息抜きだった。

(それにしても、昨日のジークヴァルト様の様子はおかしかったな……。リーゼロッテ嬢を領地に迎え入れて、ここのところ機嫌はすこぶるよかったはずなのに)

「何かやらかして嫌われたかな?」
「一体なんの話だ?」

 無意識につぶやいたカイに、ハインリヒは訝し気な視線を送った。

「いえ、ただの独り言です。それにしても楽しみだなー。オレ、デビューも含めて、白の夜会にまともに参加したことないですからねー」

 嫌味っぽい口調のカイにハインリヒは苦虫をかみつぶしたような顔になる。

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