ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「わたしはいつも止めてはいるんだ。そういうことは、義母上に言ってくれ」
「まあ、それはそうなんですけどね。でも、もう少しハインリヒ様からねぎらいの言葉があってもいいんじゃないかって、オレ思うんですけど」
「……お前には苦労をかけてすまないと思っている」
ハインリヒの言葉は本心からだ。カイは気を悪くしたふうでもなく、紅茶をハインリヒの前に提供しながらいたずらっぽく言った。
「王太子殿下がオレなんかに謝ったらダメですって。そこはせめて感謝の言葉をくださいよ。まあでも、悪いって思ってるなら、あの件、何とかなりません? 王城を去る前に、もう一度一通りの託宣を調べなおしたいんです」
「ああ……神殿側がしぶっていてな。どのみち今は王の沙汰待ちだ」
「ディートリヒ様も何を考えているんでしょうね」
「……すべては龍の思し召し、だよ」
いつも遠くを見据えているような父王の瞳を思い浮かべて、ハインリヒは小さなため息をこぼした。
「ああ、カイ。この後、義母上の所へ行くのだろう? ついでにこれを届けてくれ」
そう言いながら、ハインリヒが引き出しから箱を取り出す。
「あ、これ、この前の守り石ですね」
箱の中には紫色が美しくたゆとう大小さまざまな楕円の石が入れられていた。
「わぁ、すごいな。これだけの石に力を込めるの、大変でしたでしょう」
「テレーズ姉上のためだ。たいしたことはない」
「イジドーラ様も張り切ってデザインされているようですよ」
イジドーラは王妃ブランドを立ち上げ、ドレスやアクセサリーのデザインなどを自ら手掛けている。今回は、隣国へ嫁いだ王女テレーズの懐妊祝いとして、安産祈願のお守りを贈ることになっていた。
「ああ……あの人のことだから、隣国へのアピールも兼ねているのだろうな」
ブラオエルシュタインの特殊な鉱石は、他国での人気は高い。外貨を稼ぐにはもってこいだが、過去、それを目的に他国が戦争を仕掛けてきた歴史が幾度となく繰り返されている。
(余計な火種にならないといいのだが……)
何かとトラブルを振りまく義母には、ぜひともおとなしくしていてほしい。父王は王妃に甘すぎるのだ。
ハインリヒは、今日幾度目かのため息を小さく漏らした。
「まあ、それはそうなんですけどね。でも、もう少しハインリヒ様からねぎらいの言葉があってもいいんじゃないかって、オレ思うんですけど」
「……お前には苦労をかけてすまないと思っている」
ハインリヒの言葉は本心からだ。カイは気を悪くしたふうでもなく、紅茶をハインリヒの前に提供しながらいたずらっぽく言った。
「王太子殿下がオレなんかに謝ったらダメですって。そこはせめて感謝の言葉をくださいよ。まあでも、悪いって思ってるなら、あの件、何とかなりません? 王城を去る前に、もう一度一通りの託宣を調べなおしたいんです」
「ああ……神殿側がしぶっていてな。どのみち今は王の沙汰待ちだ」
「ディートリヒ様も何を考えているんでしょうね」
「……すべては龍の思し召し、だよ」
いつも遠くを見据えているような父王の瞳を思い浮かべて、ハインリヒは小さなため息をこぼした。
「ああ、カイ。この後、義母上の所へ行くのだろう? ついでにこれを届けてくれ」
そう言いながら、ハインリヒが引き出しから箱を取り出す。
「あ、これ、この前の守り石ですね」
箱の中には紫色が美しくたゆとう大小さまざまな楕円の石が入れられていた。
「わぁ、すごいな。これだけの石に力を込めるの、大変でしたでしょう」
「テレーズ姉上のためだ。たいしたことはない」
「イジドーラ様も張り切ってデザインされているようですよ」
イジドーラは王妃ブランドを立ち上げ、ドレスやアクセサリーのデザインなどを自ら手掛けている。今回は、隣国へ嫁いだ王女テレーズの懐妊祝いとして、安産祈願のお守りを贈ることになっていた。
「ああ……あの人のことだから、隣国へのアピールも兼ねているのだろうな」
ブラオエルシュタインの特殊な鉱石は、他国での人気は高い。外貨を稼ぐにはもってこいだが、過去、それを目的に他国が戦争を仕掛けてきた歴史が幾度となく繰り返されている。
(余計な火種にならないといいのだが……)
何かとトラブルを振りまく義母には、ぜひともおとなしくしていてほしい。父王は王妃に甘すぎるのだ。
ハインリヒは、今日幾度目かのため息を小さく漏らした。