ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
(慌てないで……そう、ゆっくり回して……流して……集めて……)

 両の手のひらを胸の前でゆるく握りながら、リーゼロッテは瞳を閉じて力の流れに集中していた。その横で、エマニュエルがその様子をじっと見つめている。

 ここはいつもの執務室だ。騒ぎから数日、守護者の反乱劇で壊滅状態となっていた部屋の修復が滞りなく済み、リーゼロッテの修行も無事に再開されていた。マテアスの修復の手配もこなれてきたのか、以前と変わらない風景がそこにはあった。

 手のひらの中に力が集まってきたのを感じたリーゼロッテは、そっと瞳を開いた。横にいるエマニュエルに視線を向けると、エマニュエルはゆっくりと、だが力強く頷いた。

 それを受けたリーゼロッテは、自分の目の前にうそうそとうごめく小鬼に向かって手のひらを広げ、握りこんでいた力をそっと放った。

 緑の力がふんわりと異形に降り注ぐ。リーゼロッテは固唾(かたず)をのんで、その様子を見守った。
 きらきらとした光が終息していく。光が大気に溶けてなくなると同時に、異形はその顔を上げた。

「……――っ!」

 どろどろと形を成さなかった小さな異形は、ずんぐりむっくりした小人のようななりとなっていた。きゅるんっと愛らしい瞳をリーゼロッテに向けている。

(またブサかわいくなってる……!)

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