ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 隣のエマニュエルもぽかんと口を開けたまま絶句して固まっている。リーゼロッテは頬に両手を当てて涙目になった。

「エマ様……」

 すがるような声に我に返ったエマニュエルは、リーゼロッテを見つめて言いにくそうに口を開いた。

「リーゼロッテ様は……異形の浄化を無理になさらなくともよろしいのではないでしょうか……」

 浄化の力を放って、なぜに異形が可愛く変化するのだろうか。やろうと思ってできることではない。かえって凄すぎるとエマニュエルは思うのだが、リーゼロッテの顔は今にも泣き出しそうになっている。

「リーゼロッテ様は力を収束させるのが苦手のようですねぇ」

 マテアスが紅茶を目の前に差し出しながら、テーブルにカップを置こうと、邪魔な小鬼を人差し指でピンとはじいた。小さな異形はころりと転がって、テーブルからぽてりと落ちていく。
 その様子は、回し車にはじかれたハムスターを連想させて、リーゼロッテの頬が思わずゆるんだ。

(って笑ってる場合じゃない!)

 リーゼロッテがあわてて口元を引き締めると、同じように口元を綻ばせていたエマニュエルが擁護するように口を開いた。

「それでも、リーゼロッテ様はずいぶんと力の制御が上手になりましたわ。流れをきちんと把握できるようになって、力を使い果たすこともなくなりましたし。ですから、これ以上を望むのは……」

 暗に浄化は諦めろと言われて、リーゼロッテの眉がそれはそれは悲しそうに寄せられた。

「ともかく、根を詰めてはいけませんわ! 異形の浄化は気長に! じっくりと練習いたしましょう!」

 エマニュエルはリーゼロッテのこの顔に弱かった。まわりがリーゼロッテを守りすぎだと危惧している割には、自分もその一人になりつつある。その自覚はあったが、目の前で、しかも自分のせいでこんな顔をされるとなると、いたたまれない気分になってしまう。

< 663 / 678 >

この作品をシェア

pagetop