ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 龍のもとにたどりついた王女のまぶたに、あざやかなまでに青いかがやきが届きました。
 生まれてから色というものを感じたことがない王女は、なんてきれいなのだろうと声もなく唇をふるわせました。
 また同時に、なんとさびしい色なのだろうと。

『そなたはなぜここに来た』
 龍の声を聞いた王女は、驚きで返事ができませんでした。
 龍の声は、星読みの塔で聞いた、あの神さまの声だったのです。

 王女はおどろきに唇がふるえ、よろこびに心がふるえました。
 そして、王女のバラ色の頬に、宝石のような涙がつたいました。

 龍を見上げ、しずかに涙をながす王女に、龍は少しこまったように問いました。
『そなたはなぜ泣いている?』
 王女がきょうふから泣いているのではないことは、龍にも感じとれました。

 これまで龍のもとにやってきた人間たちは、龍が言葉をかけるまでもなく、血の気をうしない、おそれおののき、おのれの言いたいことだけまくしたてると、みな、龍のもとから逃げだしていったのです。
 王女のふるえる心が、龍にはふしぎに感じられました。

 声の主に会えたことを、王女はこころからよろこびました。
 ずっとお礼が言いたいと祈りつづけていた王女は、うれしくてしかたがありませんでした。
 しかし、目の前の龍のこころを感じ取ると、よろこびだけではない何かに、王女は胸がおしつぶされそうになりました。

「あなたさまのこころが、あまりにもつめたく、あまりにも凍っていらっしゃるから……」

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