ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 絵本を閉じて、マルグリットはベッドで横になるリーゼロッテをやさしく見やった。

『孤独な龍と星読みの王女』は、ブラオエルシュタインでは、子供ならば一度ならずとも読み聞かせられる童話として最もポピュラーな物語である。
 国民の間では、国の創設にかかわる青龍の神話を元に作られた、子供向けの童話という認識であった。

「ねえ、母様。龍の神さまと星読みの姫は、いまもずっといっしょにいらっしゃるの?」

 頬を紅潮させて、興奮したようにリーゼロッテはたずねた。

「そうね。おふたりでずっと、この国を守ってくださっているのよ」
「わたしも神さまのお声をおききしたいわ」
「ふふ、いつかリーゼロッテだけの神様が、やさしくお声をかけてくださるわ」

 自分と同じように、リーゼロッテもいつかは託宣の相手と結ばれる。娘を溺愛しているイグナーツが聞いたら、微妙な顔をしそうだけれど。

「そうしたら、わたしも龍の神さまの花嫁になれるかしら?」
「あら、それは困ったわ。ロッテ、あなたにはもう決められた相手がいるのよ」
「決められた相手?」
「そう、未来の旦那様……今のロッテにとっては婚約者ね」
「こんやくしゃ……」
「将来、結婚しましょうねって約束した人の事よ」
「おやくそくしたの?」
「神様がそうお決めになったのよ」
「龍の神さまが?」
「ええ、そうよ」
「……ならわたし、その方のお嫁さんになる!」

 瞳を輝かせながら言う娘に、マルグリットは微笑んで頷いた。

(相手があのジークフリート様の息子というのが気になるけど……)

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