ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ハインリヒは斜め後ろに控えるジークヴァルトに小声で話しかける。自分の護衛騎士の筆頭を務めるフーゲンベルク公爵は、ハインリヒの幼馴染でもあった。

「どう、とはなんだ?」

 質問に質問で返される。ジークヴァルトとて、この茶番の理由はわかっているだろうに。ハインリヒが眉をひそめると、ジークヴァルトは腰を折って慇懃無礼に言いなおした。

「一体何がどうとの仰せでしょうか? 王子殿下」

 眉間にしわをよせ、さらに不機嫌な顔になったハインリヒは、言い方の問題ではない、とつぶやいた。

 しかし、その機嫌の悪い姿も一枚の絵のように様になっていて、令嬢たちから感嘆のため息が漏れる。ハインリヒは、密かに『氷結の王子』や『孤高の王太子』などと呼ばれているのだ。

「ヴァルトは婚約者の令嬢に会っているのだろう? その、初めて会った時に、こう、何か感じるものがあったとか、わたしが聞きたいのはつまりそういうことだ」

 みなまで言わせるなと思ったが、ジークヴァルトはあえて言わせているのだろう。どうして自分のまわりには、こういったクセの強い人間ばかりなのだろうか。

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