ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「知らんな」

 ジークヴァルトはそっけなく答えた後、「むこうは泣いていたが」と、やはりそっけなくつけ加えた。

(泣くほど感動を覚えるものなのか?)

 一瞬そう思ったが、ジークヴァルトのことだ、相手を威圧して泣かせたに決まっている。ハインリヒは、相手の令嬢が気の毒に思えてきた。

 しかし、泣きたいのはこちらの方だ。国の明暗を担う立場としては、めそめそと泣いている場合ではないのだが。

 残された時間はあと二年。やらねばならぬ必要事項を考えると、あまりにも時間が足りなかった。

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