ふたつ名の令嬢と龍の託宣
(ハインリヒのドストライクだな)

 たれ目の令嬢を見てそんなことを思ったなどとおくびにも出さず、「問題ない。ダーミッシュ嬢はわたしの婚約者だ」とジークヴァルトは告げると、リーゼロッテを抱えたまま、王太子のいる方向へ戻っていこうとする。

 令嬢たちがさっと道を開けるが、みな興味津々の視線を向けている。ジークヴァルトはこの状況を利用しない手はないと、内心ほくそ笑んだ。

「王太子殿下。わたしの婚約者であるダーミッシュ嬢の気分が優れないようです。退出の許可をいただきたいのですが」

 一瞬、目を見開いて、ハインリヒはゆっくりとうなずいた。

「わかった、許可する。わたしの応接室の使用を認めよう。そこで休ませてやれ」

 近くの近衛兵に医者の手配を命ずると、ハインリヒはその場を立ち上がった。

「みなの者、今日は庭で茶を楽しむには、いささか天気がよすぎるようだ。ここで茶会をお開きにすることを許してくれ」

 正午を過ぎ、だいぶ汗ばむ気温になっていた。それだけ言い残すと、ハインリヒは振り返りもしないで、来た道を足早に戻っていった。

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