ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 エラがリーゼロッテを、心から大事に思っていることは、子供心に感じていた。今もそれは変わらないのだろうと、アンネマリーはうれしくなる。

「エラ、落ち着いて聞いて? リーゼロッテは気分が悪くなって、公爵閣下が奥へお連れになったわ」

 エラの顔色がみるみる悪くなっていくのがわかる。あわててアンネマリーは言葉をつけ加えた。

「王子殿下が医師の手配を命じていたから、きっと大事はないわ。こちらに迎えが来るはずだから、エラもわたしと一緒に来てちょうだい」

 青ざめた顔でこくこくとうなずくエラは、今にも泣きだしそうだった。

 一瞬、リーゼロッテが公爵に抱き上げられたなどと言わなくてよかったと思ったが、噂話が広がるのはあっという間だ。ここでも、先ほどの出来事を、声高に話している令嬢がいる。

 アンネマリーは事の次第を、正直にエラに話すことにした。

 アンネマリーもいろいろと聞きたいことがあったが、今はリーゼロッテの無事を確かめることが先だ。ダーミッシュ一家の溺愛ぶりもきっと健在だろう。そう思うと、こんな時であったがアンネマリーは、知らず、口元を小さくほころばせた。

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