ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 しばらくもくもくと口を動かしていたリーゼロッテは、クッキーが口の中になくなったのか、動きをぴたりと止めた。再びクッキーを差し入れる。

 もくもくもくもく

 けんめいにクッキーを食むリーゼロッテを、リスか何か小動物のようだとジークヴァルトはじっとながめていた。

 リーゼロッテからの手紙には食べ物の事ばかり書いてあったので、ジークヴァルトは何となく、食べることが好きな、どちらかというと、ふくよかな令嬢になっていると勝手に想像していた自分に気づく。

 最近では、形式ばった手紙しかよこさないので、彼女も大人になったのだろうと思っていたのだが。今、目の前にいるのは、痩せっぽちの小さな令嬢だった。

 先ほど背負っていた異形の数を見ると、常に力を消費していたということか。だとしたら、さっさと浄化してしまえばいい。

 彼女なら、そのくらいの力を持っているはずだ。それなのに、なぜあんなになるまで、放置していたのだろうか?

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