ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークヴァルトは自分の婚約者にまつわる噂話を、それほど気には留めていなかった。

 だが、あの『悪魔の令嬢』という不可解なふたつ名は、おそらく異形の姿が見える者が言い出したのだろう。確かに、あの姿を目撃したなら、そう呼ばれても無理からぬことであった。

(――不手際だ)

 言い訳のしようもない。

 リーゼロッテが十五歳になるまで、不測の事態以外は一切接触しないよう、ラウエンシュタイン家から条件が出されていた。だが、それでも調べようはあったはずだ。ジークヴァルトは無意識に舌打ちをした。

 皿の上のクッキーが半分ほどなくなったころ、呆けていたリーゼロッテがふいに視線を上げた。

 うすぼんやりした意識のリーゼロッテの目の前には、自分の唇にクッキーを押し付けている、無表情の黒髪の騎士がいた。青い瞳と視線が合う。

「じーくヴぁると、さま……?」

 緑の瞳を見開いて、リーゼロッテは不思議そうに、こてん、と首をかしげた。

 手に持っていたクッキーを皿に戻すと、ジークヴァルトは小さな顎を片手ですくい、リーゼロッテを上向かせた。

「それでお前は、どうしてそんなことになったのだ?」

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