ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 整髪料か何かだろうか?ジークヴァルトのなでつけられた髪からふわりと香りが立つ。義父とも義弟とも違う男性的な匂いにリーゼロッテの心臓がどきりとはねた。

 逃れようと身をよじったリーゼロッテは、バランスを崩してジークヴァルトのつむじにキスをおとしそうになる。とっさにジークヴァルトの肩をつかみ、つっぱるようにして距離を取った。ペンダントを掴まれているので、わずかな距離しか開かなかったが。

 石に唇をよせているジークヴァルトの吐息が、リーゼロッテの鎖骨の真ん中あたりにあたる。

(近いです! 近いです! 近すぎます! 魔王様!!!)

 心の叫びは絶叫に近かったが、実際には、はくはくと浅い呼吸をくりかえすので精一杯だった。

 胸の真ん中が熱を帯びて熱くなる。ジークヴァルトに腕をつかまれたときに感じた、あの熱だ。

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