ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークヴァルトが顔を上げペンダントから手を離すと、ころんと石が、リーゼロッテのデコルテに転がった。見やると、そこには、青色の石がさん然と輝いていた。

 たゆとうように、石の中の青がゆらめく。

「綺麗……」

 青銅色だったペンダントの石は、幼い頃ジークフリートにもらったときのように澄みきった青色に輝き、くすんでいた濁りが消えていた。

 無意識に、リーゼロッテがその石に手を伸ばそうとした瞬間――ジークヴァルトの人差し指が、つい、とリーゼロッテのデコルテをさまよい、それからパステルグリーンのドレスの襟元をぐいと下に押し下げた。

 年頃の娘がちょっと頑張ってみた、という程度に胸があいたエラ力作のリメイクドレスであったが、ジークヴァルトの指によって、リーゼロッテのささやかな胸の谷間の部分があらわになる。

 リーゼロッテのその場所には、生まれついたときからある、文様のようなあざがあった。ジークヴァルトは、そのあざをなぞるようにその人差し指を滑らせた。

 驚きのあまり、リーゼロッテは声を出すことすらできずに固まっている。ジークヴァルトは胸元に頭をうずめ、そのあざに唇をよせていった。

 スローモーションのように感じて、リーゼロッテはその動きを目で追った。ジークヴァルトの唇が、直接肌に触れる。温かい吐息を一瞬感じたかと思うと、あざを中心におびた熱が強くなる。

「ふ、ぁ」

 声にならない声がリーゼロッテの口から漏れる。リーゼロッテは知らぬ間に、ジークヴァルトの頭を抱え込むようにしがみついていた。

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