ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテはエメラルドの瞳を見開いて、ぱしぱしと幾度か瞬きをした。差し出されたものを断ることもできずに、おずおずとカップに手を伸ばした。

「ありがとうございます」

 いつもの癖で、慎重に、ゆっくりとソーサーごとカップを手に取る。

(とりあえず一口だけ……)

 ひとくち紅茶を口にふくむと、ふんわりと甘い芳香がひろがった。ほう、と溜息がでる。思っていた以上にのどが渇いていたようだ。

 慎重な手つきでリーゼロッテは、何とか割らずにティーカップをテーブルの上にそうっと戻した。

< 99 / 2,065 >

この作品をシェア

pagetop