僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

拓人さんは声だけじゃなくて、叫び方も、イントネーションも、姉ちゃんにそっくりだった。

「ハハ! そういうことか」
 紫月さんは突然、声を上げて笑った。
「何ですか?」
 拓人さんが、紫月さんを怪訝そうな目で見つめる。

「あのクソ姉は、あんたに似たんですね」
「クソ姉だと? お前、人の娘になんて暴言を!」
 紫月さんは意図的に、拓人さんを挑発しているように見えた。

「確かに人の娘ではありますけど、あれは化け物と言っても決して、過言ではないです」
 拓人さんが、紫月さんの顔に向かって、拳を振り上げた。拳が頬に触れる前に、大地さんが紫月さんと拓人さんの間に入って、拓人さんの拳を手の平で受け止めた。

「義勇、挑発もほどほどにしろ。俺がそばにいなかったらどうする気だったんだ」
「ほどほどにしたら、怒らせられないのに?」
「絶対にそうとも限らないだろ。お前はいつも言動が危なっかしいんだよ! 見ていてハラハラする!」
 腕を組んで、不満げな様子で大地さんは言った。

「そんなに危なっかしいですか?」
「ああ。昨日のだって、お前が姉を挑発したから怪我をしたんだろう!」
「おい、二人だけの世界に入っているんじゃねぇぞ、クソガキども」

 拓人さんが殺気のある鋭い目で、紫月さんと大地さんを睨みつけた。また、姉ちゃんの面影を感じた。怖くて体が震える。

「蓮夜、大丈夫」

「……うん」

 紫月さんが俺の背中を撫でた。俺は紫月さんを見て、ゆっくりと頷いた。

「義勇、逃げるぞ」
 大地さんが紫月さんの腕を掴んで言う。
「はい。蓮夜、お母さんを」
「逃げよう、母さん。俺と一緒に」
 母さんの手を握って、俺は言った。
「蓮夜、私は……」
「母さんが俺の姉ちゃんや拓人さんと違って優しい人なのは、俺が一番よく知っているよ」
「ありがとう、蓮夜」
 母さんは笑って、手を握り返した。

 俺と紫月さんと大地さんと母さんは、急いで駐車場にある紫月さんの車に乗り込んだ。 ホテルの中には母さんが入れないから、車で逃げるしかなかった。

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