僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
「さすが親子だな」
紫月さんがニヤリと、意地の悪そうな笑みをこぼす。
「お母さん、拓人さんは本当に、お母さんと一緒に飾音さんを説得する気だったんですか?」
ハンドルを動かしながら、大地さんは口を開く。
「はい、それはそうだと思います。ただ拓人は、飾音が自分の血を色濃く引いたせいで、暴力的になってしまったのだと気づいていません」
「なるほど、それで自分も役に立てると思っているわけだ。……アホだな。お母さんが拓人さんにクソ姉と蓮夜のことを全て話した理由はなんですか?」
「拓人のことをもう一度だけ、信じてみたかったんです」
「自分に手を上げた人をもう一度信じようとしたら、間違いなく地獄を見ますよ」
あたかも自分が地獄を見たかのような言い方で、紫月さんは言った。
「……本当にそうですね」
姉ちゃんのことを信じたいとまだ思っているから、俺も、地獄を見る羽目になるのかな。
「蓮夜、お前は例外だ。姉のことをまだ信じたいなら、信じたままでいいよ。お前だけは絶対に、地獄に落とさないから」
下を向いている俺に、紫月さんが声をかける。顔を上げて、ミラーに映っている紫月さんを見る。紫月さんは俺と目を合わせると、清々しい顔で笑った。
「うん。ありがとう、お義父さん」
「本当にありがとうございます、紫月さん。紫月さんが蓮夜を大切にしようとしてくれるたびに、私は勇気をもらっています。紫月さんを見るたびに、『もっともっと、蓮夜のことを考えられるようにならないと!』って思えるんです」
「そんな大袈裟ですよ。俺は全然大したことはしてないですし」
「しています。もっと自分を誇ってください、紫月さん。蓮夜は紫月さんが優しくて頼れる人だと知っていたから、あの日助けを求めたのですから。そうでしょ? 蓮夜」
「うん、そうだよ」
大地さんが車を停めて、紫月さんを見る。多分、スイーツのお店に着いたから停めたのだと思う。
紫月さんがシートベルトを外して、座席の背もたれに手を当てながら、おぼつかない足取りで後部座席の前まで歩いてくる。
「え、お義父さん、どうしたの?」
華奢な俺の体を前から抱きしめて、紫月さんは涙を流した。
「……ありがとう、蓮夜。蓮夜がそう言ってくれて、すごく嬉しい」
掠れた細い声が、耳に届いた。
「俺もお義父さんがそう言ってくれて、すごく嬉しい」
紫月さんの真似をするみたいにいう。紫月さんは何も言わないで、俺をさらに強い力で抱きしめた。