僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

 黒いセダンの車が、俺達の前で止まった。どうやら、大地さんと母さんが戻ってきたみたいだ。

「義勇、煙草没収。蓮夜くんの前で吸うんじゃない」
 大地さんが運転手席のドアを開けて、車から降りながら言う。
「はーい、すみません」
 紫月さんは素直に、大地さんに煙草を渡した。
 母さんが助手席のドアを開けて、車から降りた。
「お帰り、母さん」
「ええ、ただいま蓮夜」
 車のドアを閉めて、母さんは笑った。

「拓人さんいませんでした?」
 紫月さんが眉間に皺を寄せて大地さんに聞く。
「ああ、いなかった」
「え、本当ですか?」
「義勇、俺が嘘をつくような奴だと思うか?」
 紫月さんはすぐさま否定した。
「思いませんけど、妻に暴力を振るうような人が、簡単に身を引くとも思えないんですよね。こっちには来なかったから、てっきり大地さん達の方に行っているのかと思ったんですけど」
「もしかしたら、今頃俺達の車を必死で探しているのかもしれない」

「あるいは、家で飾音と話をしているのかもしれません」
 母さんが紫月さんと大地さんを見ながら呟く。目を見開く。そこまでは考えてなかった。でも、それもあり得るのか?

「え、それ一番良くないパターンじゃないですか? あの二人が話なんてしたら、喧嘩が起きる気しかしないぞ」
 紫月さんが顔を顰める。確かに、姉ちゃんと拓人さんが話なんてしたら、嫌なことが起きる気しかしないよな。もしかしたらもう既に、俺の家がめちゃくちゃになっているかもしれない。最悪、俺のキャンバスボードが壊されているかも。

「お義父さん、俺、お義父さんと母さんと大地さんと一緒に、家行きたい」
「ああ、もちろん、四人で蓮夜の家に行こう。それで二人が喧嘩をしていたらそれを止めて、蓮夜の姉をできる限り説得して、あいつが蓮夜に謝ってくれる状況を作る」
「ありがとう」
 俺が礼を言うと、紫月さんは唇の端を上に上げて、満足そうに笑った。


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