僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
「ははは、はは」
もう笑いしか出て来なかった。
殴られて、蹴られて、服を脱がされて、監禁されて、挙げ句の果てには「こんな弟いらない!」か。子供は親を選べないってよく言うけれど、子供は姉を選べないって言葉もあってもいいのではないかと思った。
俺が何をしたっていうんだ。信号無視は確かに罪だ。姉に庇われなかったら、きっとあの日、俺は死んでいた。でもそれが、俺がこんな仕打ちを受けていい理由にはならないハズだ。それなのにどうして。俺はただ紫月さんや姉ちゃんや母さんと一緒に、毎日楽しく暮らしたいだけなのに、どうして神様はそんな些細なお願いも、叶えてくれないんだ。
突然、ポケットに入れていたスマフォが、ブーブーと音を立てた。スマフォを手に取って画面を見ると、紫月さんから電話がきていた。急いでスマフォを耳に当てて、電話に出る。
「お義父さん? ごめんなさい、俺……身体が勝手に動いて」
『わかってる。蓮夜は何も悪くない。あんなことがあったら、逃げたくなって当然だ』
本当にそうなのだろうか。
俺は紫月さんが怪我をしていて俺を追えないのもわかっていたのに、紫月さんを無視して逃げてしまった。それなのに、当たり前だって言うのか。
「お義父さんを置いて逃げたのに、当たり前なの?」
『いや、逃げたくなるのは当たり前だけど、俺を置いて逃げたのは少し良くなかったな。逃げるなら俺と一緒に逃げないと』
「そうだよね……ごめんなさい」
『謝らなくていい。間違えたのがわかっているだけで十分だ』
紫月さんが優しい声色で、俺に語りかける。
『蓮夜、今どこにいる? Googleマップで、位置情報を送ってくれ』
「え、お義父さん、今俺のところに来て大丈夫なの? 姉ちゃんと拓人さんは?」
『大丈夫。姉は警察に通報した。今頃、尋問でも受けているんじゃないか? まあどうせ黙秘を貫いていると思うけど。拓人さんは、蓮夜のお母さんが家に帰らせた』
「そっか……」
姉ちゃん、ついに捕まっちゃたんだ。悲しいな。まぁ、あんなことがあったらそうなるのも仕方がないとは思うけど。捕まったなら、きっと姉ちゃんはもう二度と、ダンスの大会で賞を取れないだろうな。あと一回だけでいいから、姉ちゃんがダンス大会で生き生きとダンスをしているところを、見てみたかったな。
『ああ、ごめんな。あいつが自分から警察に行かないと意味ないのはわかってたんだけど、流石にあんなことがあったら、説得どころじゃないから。ごめんな、俺があいつの言葉を予測できていたら、蓮夜があんなに傷つくこともなかったのに』
俺は勢いよく首を振った。電話なのに、つい振ってしまった。
「俺は大丈夫だよ」
『大丈夫なわけないだろ。言っただろ、我慢するなって。泣きたいなら泣いていいんだ。でもお前が今いるのは外だからな、思いっきり泣くのは、俺の胸の中にしておけ』
「うん、ありがとうっ」
俺はそう言うと、すぐにGoogleマップを開いて、位置情報を紫月さんに送った。
『よし。待ってろ、すぐに大地さんと一緒に迎えに行くからな』
「うん」
涙を拭いながら、俺は頷いた。