僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

 そばにあった建物の前にしゃがみこんで待っていたら、紫月さんはすぐに迎えに来てくれた。多分来るのに十分もかかっていない。

 「蓮夜!」
 紫月さんが車の後部座席のドアを開けた。俺は走って車の中に入って、紫月さんの隣に座り込んだ。紫月さんが俺のことを抱きしめて、俺の背中をそっと撫でる。

「もう勝手にいなくなるなよ」
「うん」
 紫月さんの胸に顔を押し付けて、俺は声をあげて泣いた。

「お義父さん、母さんは?」

「蓮夜のお母さんなら、拓人さんと話をしている。『もう蓮夜に会わないように言う』って言ってた」
「それなら後で、お礼言いに行かないと」

「ああ。今はまだ話中だろうから、明日にでもまた蓮夜の家に行こう」

「母さん、暴力振るわれてないかな?」

「それなら大丈夫、拓人さんはどうやら本当に、蓮夜くんのお母さんにだけは、暴力を振るおうとしないみたいだから。な、義勇?」
 ハンドルをしっかりと握っている大地さんが言う。

「はい」
「そうなの?」
 紫月さんを見上げて、首を傾げる。

「ああ、蓮夜がいなくなってからあまり間もない時に、拓人さんが怒ったんだけど、なぜか蓮夜のお母さんにだけは暴力を振るおうとしてなかったから。もしかしたら大切な人には、あまり暴力を振るわないように気をつけているのかもしれない。離婚をしてから、反省してそういう風にするようになったんじゃないか? 大切な人にだけ優しく接することができるようになるのを反省と言えるかは甚だ疑問だけどな」

「そっか……」
 つまり、少なくとも紫月さんと大地さんは拓人さんにとって大事な人じゃなかったってことだよな。それに俺も罵倒されたし、そんなに大切には思われてないかも。まあ別に、母さんの説得が成功したら拓人さんとは会わなくなるだろうから、嫌われていてもいいのだけど。

「はあ、それにしても今日は疲れたな。今日は病院に行ったら、すぐに風呂に入って、飯を食って寝よう」
「それがいい。義勇、お前多分、医者にこっぴどく叱られるからな、覚悟しておけよ」 

「ええ、叱られるのは怖いんですけど」
 面倒くさそうに、紫月さんはぼやく。

「しょうがないだろ、ただでさえ足を怪我しているのに、手まで怪我しちゃったんだから」

「ごめんなさい、お義父さん。俺のせいだね」

「バカ、怪我をしたのは蓮夜のせいじゃねぇよ。あのクソ姉のせいだ」

 本当にそうなのだろうか。俺が紫月さんの後ろじゃなくて前にいたら、紫月さんは絶対に怪我をしなかった。それに姉ちゃんが怒ったのは、俺の存在が目障りだったからだ。俺があそこに元からいなかったら、紫月さんは絶対に怪我をしなかった。それなのに、俺のせいじゃないなんて言えるのか?

「俺のせいだよ」

「蓮夜、ダメだ。その考えは良くない。俺が怪我をしたのはお前のせいじゃないから。な?」

 紫月さんが俺の両頬に手を当てる。手に巻かれている包帯が頬に触れてくすぐったい。

「うん」

 紫月さんの手を触りながら、俺は頷いた。

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