僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

 その日の夜、俺は眠れなくて、布団に寝転がって天井を見上げていた。俺の隣では、紫月さんが目を閉じて眠っていた。
 寝られないからって起こさないほうがいいよな。紫月さんも今日は色々あったから、疲れているだろうし。

「寝られないか、蓮夜」
「あ、ごめん。起こしたよね?」
「いや別にそんなことない。俺も睡眠は浅いほうだから。それにあんなことがあったら、寝られなくて当然だしな」
 包帯が巻かれてない方の手で俺の頭を撫でて、紫月さんは笑った。睡眠が浅いのは弟さんのことと紫月さんの両親のことが関係しているのかな。

「きついよな、実の姉にあんなこと言われたら」
「うん。俺、お義父さんがそばにいなかったら、今頃自殺してたと思う」
「ならそばにいてよかった」
 そう言って、紫月さんはホッとしたかのように笑った。

「俺、辛い。優しい姉ちゃんの記憶も、怖い姉ちゃんの記憶も頭の中にあるから、どっちが本当かわからなくて」

「そうだよな。……姉でも、わからなくなるよな、あんなことがあったら。家族って一番一緒にいるから、全てを理解できそうなのに、理解できないよな」

 天井を見つめて、紫月さんは眉を下げて、悲しそうに笑った。もしかして、弟さんのことを考えているのだろうか。

「お義父さんも、弟さんのことがわからなくなったことがあるの?」

 紫月さんは俺と違ってずっと弟さんと仲が良かったみたいだから、そんなことはない気がしていた。でも、そうじゃないのかな。

「俺は……わからないんだ。わからなくなったことがあるのか、そうじゃないのか」

 額に手を当てて下を向いて、紫月さんは言った。

「え?」

「前に俺の弟が、両親が死んだショックで、植物状態になったって伝えたよな」

「うん、そう聞いたよ?」

「それは嘘かもしれないし、本当かもしれない。俺は知らないんだ。蓮が植物状態になった理由を。家に帰ったら両親が首を吊っていて、蓮が床に倒れていたから、親が死んだショックで意識をなくしたと結論づけざるを負えなかった。医者も弟が倒れたのは両親が死んだことが原因だろうと言っていた。でも、それは絶対じゃない。……なあ蓮夜、八歳の子供が、自分の親を殺すことって、可能だと思うか?」

 思わず目を見開いて、紫月さんを見る。

「え。……できないと思う」

「そうだ、普通はできない。でももし、八歳の子が怒りで我を忘れて、超常的な力を発揮したんだとしたら? そう考えたら、絶対に親を殺せないとは言えないだろ? ……俺はあの日試合に勝てば、スポーツ推薦で、大学に入れることが決まっていた。それは弟だけが知っていたことだ。両親には教えなかった。教えたら、試合に出るなって言われると思ったから。そのことが何かがあって、当日にバレてしまって、両親が試合を中止させようともくろんだとしたら、弟は何をすると思う?」

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