僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
「本当にいなかったの?」
「確信はない。でも両親は滅多に家に知り合いを家に招かなかったし、蓮も友達はあまりいなかったから、三人だけで過ごしていた可能性が一番高い」
それならやっぱり、弟さんが両親を殺したと考えるのが妥当なのか。
「俺は見抜けなかった、蓮の残虐性を。蓮に親を殺す力があることを。理解できなかったんだ、蓮のことを」
「残虐性……」
本当に紫月さんの両親を殺していたのなら、確かに弟さんは残虐性があると言っていいのかもしれない。でもその残虐性には、紫月さんへの愛が込められているのではないか? だって弟さんは、人を殺してはいけないとわかっていたのに、紫月さんが出ている試合が中止にならないために、両親を殺したのだから。
弟さんの残虐性は、俺の姉ちゃんとは全く違うものだった。俺の姉ちゃんは紫月さんの弟さんと違って、やることなすこと全てが残酷だ。紫月さんの弟さんと姉ちゃんでは、全然比べものにならない。
涙が出そうになって、俺はつい下を向いた。
「蓮夜?」
紫月さんが俺に顔を寄せる。
「素敵だね、本物の兄弟愛って。兄のためなら、犯罪者にだってなれるんだね」
事故に遭う前の姉ちゃんだったら、俺のために、犯罪者になってくれたのだろうか。
「は? 目を覚ませ、蓮夜。そんな兄弟愛は、全然素敵じゃない」
俺の肩を掴んで、紫月さんはかぶりを振る。
「素敵だよ? 少なくとも、俺と姉ちゃんの関係性よりはよっぽど」
「それは……」
なんて返事をすればいいのかわからなかったのか、紫月さんは突然、黙り込んでしまった。
こんなこと言うんじゃなかった。紫月さんを困らせたいわけじゃなかったのに。
「ごめん」
「謝らなくていい。でも、姉のことはもう」
「諦めろって、言うんだよね?」
俺の発言に驚いたのか、紫月さんは目を丸くする。
「別にそうは言わないけど、もう少なくとも、また仲良くなりたいとは思わない方がいい」
「そうだよね」
そう思えるようになれる気が全然しないけど。
「まあ、弟を八年も生き延びさせている俺に言われても、説得力がないかもしれないけどな」
「でも、お義さんと弟さんは相思相愛だからいいんじゃないかな。俺と姉ちゃんは、俺の一方通行だから」
俺の顔を十秒ほど見つめてから、紫月さんは口を開く。
「蓮夜、俺とお前も、相思相愛だからな。それを忘れるなよ」
胸が締め付けられた。紫月さんが一番大切にしているのは俺じゃなくて、弟さんだ。俺は二番目だ。それでも俺はやっぱり、紫月さんが大切だ。紫月さんに優しくされるたびに、とても心が安らかになるから。
「お義父さんこそ、今の言葉、忘れないでね」
紫月さんの手を握って、俺は目を閉じた。