僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

「は? ありえない、何で今。何でっ」
 頭を抱えて、紫月さんは呟く。顔が真っ青だ。


「お、義父さんこれって」
「蓮夜、戻せ」
「え?」
「いいから早くその縄と辞書を箱に戻せ!」
 俺を睨んで、紫月さんは言った。俺は何も言わず、紫月さんの意思に従った。


 紫月さんの瞳から、涙が溢れていた。


 あの縄は、弟さんが、紫月さんの両親を殺すのに使ったものだと考えるのが妥当だろう。紫月さんはもしかして今、初めて縄を見たのだろうか。


「お、お義父さん、大丈夫?」


「いいか、蓮夜。お前は何も見ていない、俺も何も見ていない。あいつは、蓮は犯罪者なんかじゃない!!!」


 声が枯れる勢いで、紫月さんは叫んだ。あまりの大きさにビビって、肩が震えた。


「違う、違う、違う」


 紫月さんが身体を小刻みに震わせながら、掠れた声で呟く。紫月さんは完全に我を忘れていた。

 紫月さんの弟さんは、十中八九犯罪者だ。でも今ここで俺が犯罪者だって言ったら、きっと紫月さんは今以上に取り乱してしまう。

「お義父さん、大丈夫。俺は何も見てないよ。お義父さんもそうでしょ?」

 紫月さんの背中を撫でて囁く。紫月さんの服が、汗で濡れていた。無地の白いシャツの背中のところだけが、灰色に変貌している。

「……ああ、俺は何も見ていない」

 嘘だ。俺達はとんでもないものを見た。でもそのことは、今は黙っておいた方がいい。そうしないと、紫月さんが壊れてしまう気がした。そんなことを考えてしまうくらい、紫月さんは見るからに不安定だった。

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