僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
「もしかして俺って、演技下手くそ? 元気に振る舞っているつもりだったんだけど」
「全然元気に見えないよ」
「……はは、そっか。ダメだな。外面だけ大人で」
勢いよく首を振る。
「ダメじゃないよ。俺、優しいだけの人は信頼できないし」
紫月さんは作り笑いをして、俺の頭を撫でた。
「ありがと。じゃあ、今日はゆっくりするか」
「うん」
笑って頷く。よかった、紫月さんがそう言ってくれて。
「お義父さん、部屋戻ろう?」
俺が片手を差し出すと、紫月さんはすぐに手を握って立ち上がった。
「ああ。大地さんに連絡しないと。昼くらいに迎えに来てくれることになってたから」
便器のレバーを回して汚物を流しながら、紫月さんは言う。
紫月さんが怪我をしているから、大地さんが車を運転して、俺の家に行くことになっていたのか。
「大地さんって会社員? 土日休みなの?」
紫月さんがトイレを出たところで、俺は聞いた。
今日は日曜だから、会社員なら土日休みなのってよくあるし、そういうことなのかと思った。
「いやあの人は会社員じゃなくて、武道館でライブとかするくらい有名なバンドのボーカリスト」
「ああ、だからあんなにオシャレなの?」
俳優じゃなくてバンドマンだったのか!
「そう。ちなみにあの帽子は変装。基本的に平日は音楽番組の撮影があって、土日はスタジオで練習をしている」
髪色が灰色じゃ帽子をしていても目立つし、変装になっていない気がするけど。
「昨日も練習をしていたの?」
「そう。俺や蓮夜と会ってない時間に、スタジオに行って」
そう言うと、紫月さんはズボンのポケットからスマフォを取り出して、電源を入れた。紫月さんはそのまま、スマフォを十秒ほど操作する。大方、大地さんに連絡をしているのだと思う。
「今日は迎えに来ないって」
「そっか」
「ああ。暇になっちゃったなー。何したい、蓮夜」
「俺はお義父さんが元気になることだったら、何でもいいよ」
俺がそう言うと、紫月さんは頬を赤らめて、嬉しそうに笑った。