意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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『わたしのこと、愛してるんでしょ?』
(なんて訊けるわけないでしょうがっ、シゲオ!)
朔哉のマンションへ向かうタクシーの中、シゲオから与えられたミッションに、「無理」のラベルを貼り付けた。
いまの関係を急激に変えかねない質問をして、気まずい状態で毎日朔哉と顔を合わせるなんて、無理。
気が強くてサバサバした性格で、鋼のような心臓の持ち主……に見えても、中身は豆腐メンタル。打たれ弱く、あっけなくプレッシャーに押しつぶされるのが、わたしの実態だ。
あり得ないとは思うけれど、百パーセント……いや、二百パーセントくらい、返ってくる答えに確信を持てなければ、『わたしのことをどう思っているか』なんて訊けやしない。
(でも……いまを逃したら、この先もずっと訊けないままになる、かも)
そうしていつの日か。
朔哉を報われない恋の孤独から救い上げる女神が現れて、彼を幸せにするのを目の当たりにするかも……しれない。
彼の傍にいるのが、「芽依」でなければ、「わたし」と決まっているわけじゃない。
ぐるぐるうだうだと考えを巡らせながらタクシーを降り、エレベーターへ。
玄関のドアをそっと開け、まだ明るい部屋にホッとしたのが半分、留守番をしていなかったことを怒られるかもしれないと恐れる気持ちが半分で、靴を脱ごうとして見慣れぬものを見つけた。
「た、だい……ま?」
(女……もの、だよね?)
広い玄関にきちんと揃えて置かれたベージュのパンプス。
五センチヒールのそれは、わたしのものではなく、もちろん朔哉のものでもない。
最悪な場面を目撃するかもしれない予感で、心臓が一気に鼓動を速め、喉が干上がり、足が震える。
どうしていいかわからず立ち尽くす耳に、パタパタとこちらへ向かって来る足音が聞こえた。
咄嗟に逃げ場を求めてさまよわせた視線が、見覚えのある姿を捉える。
「偲月ちゃん、おかえりなさい!」
にこやかに出迎えたのは、意外で、けれど懐かしい顔だった。
「芽依」
ほどよい抜け感のあるベージュのセットアップに、キナリのブラウス。品のいいネックレスと肩上で切り揃えた黒髪の合間に揺れるピアス。
そしてほんのりと香るのは、どこか馴染みのあるユニセックスな香り。
もともと清楚な美少女だった芽依は、ますます美しくなっていた。
最後に会った、大学卒業したての頃の初々しさは消え、すっかり大人の女性だ。
ただ、愛らしい大きな目は、泣いたあとのように赤く充血している。
「久しぶり。元気だった?」
「う、うん」
「夕城の家に泊まるつもりだったんだけど、偲月ちゃんが朔哉お兄ちゃんのところにいるって言うから。会いたくなって、無理やりくっ付いて来ちゃった。急にごめんね? 迷惑だった?」