意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そんなことないよ。わたしも芽依に会いたかったから、嬉しい」
「よかった! あれ? その荷物、どうしたの?」
「あ、友だちのところに預けていたのを引き取って来て……」
「運んであげる」
「や、いいよ!」
「ベルガールも経験済みなんだから、任せて! お兄ちゃんはいまシャワー中だから、あがって?」
芽依がここの住人で、わたしが客のような気分を味わいながら、奪われたキャリーケースを追いかけて、リビングへ向かう。
「芽依。今回の帰国……もともと予定していたの?」
先日、朔哉と電話で話していた様子から推測するに、自身の誕生日には帰国するつもりだったのだろうけれど、随分急な帰国に思われた。
「予定していたとも言えるし、そうではないとも言えるかな。本当は、三月末で研修を終えて帰国するはずだったんだけど、わたしの後任予定のスタッフが急に辞めちゃって。引き継ぎし直すのに、延期していたの。でも、一昨日、お父さんとの電話で、朔哉お兄ちゃんが偲月ちゃんを庇って怪我をしたって聞いて、びっくりして飛んで帰ってきちゃった」
「そう、だったんだ。ごめんね……わたしのせいで」
滅多なことでは衝動的に行動しない芽依も、大好きな兄が怪我をしたと聞いて、冷静ではいられなかったのだろう。
朔哉や夕城社長だけでなく、芽依にまで迷惑をかけてしまったことが、心苦しい。
「偲月ちゃんのせいじゃないよ! お父さんから話を聞いたけど、偲月ちゃんは巻き込まれただけでしょう? 大変だったね? でも、怪我がなくて、本当によかった」
「朔哉のおかげだよ」
「お兄ちゃんも、偲月ちゃんを守ってあげられて、ホッとしてるよ」
「でも、こんなに迷惑かけておきながら、わたし、何の役にも立ててなくて……」
「そんなことない。こうしてお兄ちゃんのお世話をしてくれて、会社でも手伝ってくれてるのに」
「ほぼ雑用係だけどね」
「あ。お兄ちゃん、ワガママばっかり言って偲月ちゃんをわざと困らせてるんじゃない? 昔っから、偲月ちゃんには意地悪ばっかりしてたもんね。偲月ちゃんがアタフタするのを見るのが楽しいんだって」