意地悪な副社長との素直な恋の始め方
その意味を考えかけ、頭を振る。
(芽依がボーイフレンドに貰ったとか、あるかもしれないし。第一、芽依は朔哉のことを兄としか思っていないんだから。想像や妄想で判断するなんて、馬鹿々しい)
余計な考えを洗い流そうと、いつもより念入りに髪を洗い、身体を洗い、ボディローションを塗りたくり、爪の先まで贅沢な香りに包まれてバスルームを出た。
一つ深呼吸をし、ドライヤーの音に混じって芽依の明るい笑い声が響くリビングへ足を踏み入れる。
「冷蔵庫に、お土産のマカロンとビールが冷えてるよ。日本のビールが飲みたくて、コンビニで買っちゃった」
朔哉の髪を乾かしていた芽依が振り返り、冷蔵庫を示した。
「あ、うん、ありがとう。貰うね」
すでにシゲオのところでさんざん飲んできたから、これ以上飲めばキャパオーバーは確実。明日の二日酔いは決定だ。
でも、酔ってしまえば芽依と必要以上の会話をせずに済む。
何か言ったとしても、酔っていたと言い訳もできる。
そんなことを考えながら、五個入りのカラフルなマカロンの中から抹茶味と思われるものを一つ選び、齧りつく。
程よい弾力と甘み、抹茶の苦みを存分に味わってから、喉を鳴らして冷えたビールを一気に流し込んだ。
「偲月ちゃん、いい飲みっぷりだね? 友だちと飲んでたんじゃないの?」
「うん、でも、ちょっと飲み足りなくて……」
「ね、友だちって……実は、カレシ? 偲月ちゃん、高校生の時からモテてたもんね。何だかますますキレイになってるし。きっと、ステキなカレシがいるんでしょう?」
二個目のマカロンは、おそらくフランボワーズと思われるピンク色のものを選んだ。
甘酸っぱい味に、胸がきゅっとなるのを感じながら、答える。
「……カレシは、いないよ」
「本当なの? ね、お兄ちゃん、偲月ちゃんのカレシ見たことないの?」
芽依が、頬を寄せるようにして朔哉を覗き込む。
朔哉が振り返れば、唇が触れそうな距離だ。
「ない。偲月がいないと言うんだから、いないんだろう」
「そうかなぁ?」
「芽依こそ、いないの? ボーイフレンドとか。あっちの人って、積極的に口説いたりするんじゃないの?」
「うーん。確かに、すごく褒めてくれるし、愛の言葉も大サービスだし、レディファーストだし、イヤな気分にはならないけど……あんまり押しが強いとわたし、ダメみたい。理想の男性なんて、なかなかいないんだなって、つくづく思っちゃった」