意地悪な副社長との素直な恋の始め方

苦笑いする芽依の言葉で、シゲオが正しかったことが証明された。
やはり、朔哉はわざとダメっぷりを披露しているらしい。

わたし限定で。


「ね、偲月ちゃん、今日はたっぷりガールズトークしようね!」

「え?」


芽依は、キャリーケースを朔哉の寝室へ運び込むとにっこり笑った。


「今日は、お兄ちゃんが偲月ちゃんの代わりにゲストルームで寝て、偲月ちゃんはわたしと一緒にこっちの広いベッドで寝ればいいって」


驚きを悟られてはいけないと咄嗟に俯く。


「う、うん、そうだね」


おそらく、わたしはゲストルームに滞在して、朔哉の面倒を見ていることになっているのだろう。
であれば、口からでまかせの「婚約」の話も、していないにちがいない。

夕城社長と朔哉が、何をどう芽依に説明したのか確かめるまでは、下手なことを言わないほうが良さそうだ。


(何だか……)


最初から、シゲオに言われた通りに、朔哉の気持ちを確かめるつもりではなかった。

けれど、こうして思いがけずその機会を奪われてみると、不完全燃焼のようにモヤモヤするのはなぜなのだろう。


「偲月ちゃん、こっちのバスルーム使って! わたしは、朔哉お兄ちゃんの様子を確かめてから、ゲストルームのを使うから」

「あ、うん。ありがとう」


抜糸を終えた朔哉は、普通にシャワーをすることができる。
わたしの手を借りることもない。
もし、助けが必要なら芽依を呼べばいい。

他人のわたしより、妹に世話をしてもらう方が自然だ。


(なのに……なんで、そんな顔してるのよ?)


寝室の奥にあるバスルームで、鏡に映る自分の顏を見て、うんざりした。

酔って、赤くなって緩んでいてもいいはずなのに、青ざめ、強張っている。


(とにかくいまは、芽依に感づかれないようにしないと……)


バスルームに広がる甘い香りに、ふと芽依の香りを思い出す。


(そういえば、あの香り……朔哉と同じ……?)


ユニセックスな香りは人気があるし、まったく同じ香水かどうかはわからない。
たとえ同じだったとしても、単なる偶然かもしれない。

でも――。


(もし、芽依が自ら選んで朔哉と同じ香りを身に纏っているとしたら?)

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