意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「映画でも、買い物でも、偲月が行きたいところ、したいことがあるなら、一緒に出かけたい」

「行きたい、ところ……?」


急に言われても、咄嗟に思い付かず口ごもる。

そんなわたしの様子を「行きたくない」と勘違いしたらしい朔哉が、「いや、やっぱりいい」と言い出した。

焦った脳裏に、ふと毎年訪れている撮影スポットが思い浮かぶ。


「チューリップ!」

「チューリップ?」

「ちょっと足を延ばさなくちゃならないんだけど、いろんな種類のチューリップが咲く公園があって、毎年行ってるの」

「毎年? チューリップを見るためだけにか?」


一瞬、ごまかしてしまおうかという日和った考えが過ったけれど、それではダメだと思い直した。
素直になりたいなら、嘘や下手なごまかしはすべきじゃない。


「あ……ええと……撮影を、しに。カメラ……が、趣味なの。小学生の頃から。週末とか、長期の休みにはちょっと遠出をして撮影するのが習慣になっていて……」


素人カメラマンだと言うのは、何となく照れくさくて、声が小さくなる。

朔哉は、さして驚く様子もなく、昨日から放り出したままのキャリーケースの中に転がるカメラへ視線を向けた。


「高校の頃も?」

「高校生だった時は、バイトもしてたし、そんなにお金なかったから、あんまり遠くは行けなかったけど。大学に入ってからは、バイトは平日の夜、時給のいいところでしてたから、週末はほぼ出かけてた。どうしても撮りたい景色のために、同じ場所へ何度も通ったり、野生動物を撮影するために一週間、山でサークル仲間とキャンプ生活したりとか」

「……だから、」


何か思い当たる節があったのか、朔哉がぽつりと呟いた。


「だから……?」

「いや、何でもない。偲月が撮った入社式の写真を見たが、とてもいい出来だった。新入社員たちの溌剌とした感じがよく撮れていた」

「役に立てたならよかった」


広報の仕事に興味があることを話そうかとも思ったが、やめた。
リラックスして会話できているいまの雰囲気を壊したくないし、朔哉だって、休みの日にまで仕事の話はしたくないだろう。


「で、チューリップが咲いている公園の具体的な場所は?」

「えっと……」


わたしがスマホの地図アプリで場所を示すと、朔哉は「車なら、一時間ちょっとだな」と言って立ち上がった。


「え。すぐ行くの?」

「すぐじゃないほうがいいのか?」

「うん。できれば夕方がいい。昼間だと花が開き切ってるから。ちょっとした高台になっている公園で、今日みたいな晴れた日なら夕日も綺麗に見えるし。でも、朔哉の腕は大丈夫なの? 運転できる? 何ならわたしが運転しても……」

「山奥を走るわけじゃないし、ハンドリングに問題はない。この辺りの海岸線沿いを適当にドライブすれば、公園につく時間を調整するのも難しくないだろ」

「海? 海も撮りたい!」

「決まりだな」

「すぐに準備するからっ!」


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