意地悪な副社長との素直な恋の始め方

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いつもよりだいぶ早い活動開始だったので、月子さんを見送ってから、ゆったりと朝食を取った。

それから、念入りにメイクをし、袖を通すのもためらわれる、月子さんオススメの高級ブランドスーツに身を包む。

やっぱり緊張するけれど、着心地は抜群だ。
身体が慣れる前に、分相応のスーツに戻らないと、二度と着られなくなりそうで、怖い。

鏡の前で、後ろ姿を含めて全身をチェック。


(よし、今日は余裕! やっぱり、早く起きるといろいろ出来る。これからは、早寝早起きしようかな。お肌にもいいし……)


ところが、いざ部屋を出ようと靴を履いたところで、インターフォンが鳴った。


「はーい……?」

「おはよう、シヅキちゃん!」
「おはよう!」


ドアを開けると、そこには双子と流星がいた。


「迎えに来たぞ」

「来たよー!」

「早く行こうよ!」


約束をした覚えはなかったけれど、すでに双子の中では「わたしのお迎え」がルーチンとして記憶されたようだ。有無を言わさず手を繋がれては、抗えない。

会社の誰かに目撃されたら、大いなる誤解を招くだろうと思いつつ、保育園を経由して満員電車に乗り込んだ。
昨日同様、流星が盾になってくれて、息苦しさはかなり軽減されている。


「昨夜は、ちゃんと寝たか?」

「うん」

「朔哉から、連絡は?」

「……ない」

「ふうん? 調子に乗って、やり過ぎたか……」

「月子さんから聞いた。やっぱり……わざとだったんだ?」


昨日の流星の言動で、「わたしのこと、好きかも?」なんて思うほど、おめでたくはない。
お互い、恋愛対象外だとわかっている。


「まあな。月子さんから、朔哉がやらかしたせいで、偲月が家出中だって聞いてたし。社長がいなければ、修羅場になりそうな雰囲気だったからな。一応、あれでも手加減したんだぜ? あの場でキスでもして、もっとアイツを打ちのめすこともできたけど、偲月には無理だと思ったからやめてやったんだ」

「き、……?」

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