意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「赤くなんなよ? 誘ってると勘違いされるぞ?」
「さ、誘うっ!?」
「しーっ! バカ、声が大きい。電車の中だぞ?」
小声ではあるが、本気で叱られ、首を竦める。
「ご、ごめんなさい。でも、あの、なんでそこまで……」
「偲月のため、とかじゃないぜ? 昔っから、いつも余裕ぶって、ちっとも面白味のないアイツが気に食わなかったんだよ」
「気に食わないって……」
「いまの、偲月に振り回されてイケメンを維持できないアイツなら、一緒に飲みに行くくらいは、してやってもいいけどな」
(……絶対、行かないと思うけど)
アマノジャク――くすくす笑う流星には、ぴったりの表現だ。
天邪鬼な流星の「気に食わない」は、「好き」で「気になる」ということ。
(どっちもどっちじゃない。仲良くなりたいくせに……)
「アイツが俺との関係を疑うようなら、ちゃんと説明してやるから、俺に訊けって言えよ?」
「それは……」
流星は、いいひとだと思う。
優しいし、紳士だ。
場の雰囲気を読み、相手の事情や心境を考えた上で行動できる頭の良さも持ち合わせていて、しかもそれが「演技」だと悟らせない「演技力」もある。
そこそこイケメン、と認定してもいい。
ただし、口さえ開かなければ、だ。
彼に任せると、予測不能な行動をされ、とても心臓に悪い思いをするということは、昨夜証明されている。
「……謹んで、お断りします」