意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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シゲオと福山さんを見送り、部屋へ戻るなりまずは月子さんへ連絡する。
朝から撮影だと言っていたけれど、それで終わりとは限らない。
邪魔をしたくなかったので、メッセージで『朔哉がひどく酔って心配なので、今夜は彼のところに泊まります』とだけ知らせた。
それから、無用かもしれないとは思ったけれど、双子ちゃんをがっかりさせるのも忍びないので、流星に明日の『お迎えは不要』と送る。
(これでよし……と)
二人からは、すぐに『了解しました』『わかった』と返信があり、これでひとまず安心だ、と思いかけ、ギクリとした。
(ま、さか、芽依がここに来るってことは……? ううん、さすがにそれはないよね?)
朔哉が、わたしではなく芽依とこの部屋で暮らし始めているのなら、夕城社長が何か言ったはずだ。
それに、あんな喧嘩まがいの言い合いをしたあとで、そんなことをすればますますわたしが頑なになることくらい、いくら鈍い朔哉でもわかるはず。
そう思い直し、ミネラルウォーターを探して冷蔵庫を開け、わたしの買った食材がそのままになっているのを発見した。
(朔哉が料理するはず、ないか……)
このまま放置して腐らせてしまうのは、もったいない。
(炊飯器でお米を炊いて、カレーを電子レンジ温めるくらいは、朔哉でもできるでしょ)
高級ブランドスーツを着たまま料理をして、無事でいられる自信がなかったので、着替えを探しにウォークインクローゼットへ足を踏み入れた。
(服、そのまんま……)
わたしが置き去りにした服たちが、変わらず存在している。
たった二日しか経っていないのだから、当たり前かもしれないけれど、自分の居場所がまだあることに安心した。
(思いっきり、帰りたがってるじゃない……わたし。それなのに、カメラとモデルの仕事のことを第一に考えて、その合間に朔哉と大人の恋をする……なんて、できるの?)
メンタルが弱く、踏ん張りもきかないのは、誰より自分が一番よくわかっている。
いまなら、いくらでも言い訳を見つけ、ここに戻って来られるだろう。
朔哉が体調を崩しているから、とか。
彼の仕事が忙しいときに、動揺させたくないから、とか。
夕城社長を心配させたくないから、とか。
破局の噂でも流れたら、あのウエディングドレスのプレスリリースに差し障るのではないか、とか。
元通り、ここで一緒に暮らしたいと言えば、朔哉もきっとそれを受け入れてくれるだろう。
福山さんに膝枕をしてもらうくらい、凹んでいるのだから。
わたしさえ、我慢すれば――。