意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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京子ママとナツに見送られ、お店から朔哉の自宅マンションへ。
シゲオと福山さんは、念のためと言って、マンションの入り口までではなく、朔哉の部屋の中まで付いて来てくれた。
朔哉が、ベッドに辿り着く前にその辺で寝込んでしまったら、わたしひとりでは運べないからだ。
酔っ払っていても、ある程度の理性はあるらしく、朔哉は暴れることも、絡むこともなく、歩きながらジャケットだのワイシャツだのを脱ぎ捨てて、寝室へ直行。ベッドへダイブして、そのまま眠りに落ちた。
「とりあえず、あのデカイ図体を担がずに済んで何よりだよ」
無事、酔っ払いの朔哉がベッドまで自力で到達したのを見届けた福山さんは、苦笑いしながら名刺をくれた。
「何かあったら、遠慮せず連絡してね? もちろん、今夜だけじゃなく。朔哉の愚痴なんかも聞くよ?」
「ありがとうございます」
「この様子じゃ、朝まで起きないでしょ。キャリーケースに、効果抜群のパック入れてあるから、偲月は明日に備えて、お肌の手入れをして早く寝なさい。新しい仕事は、これまでとちがって、簡単に誰かに代わりをお願いできるものじゃないってこと、忘れないように」
「うん。シゲオ、いろいろありがとう」
「お礼は、仕事で返してちょうだい。アンタの頑張りが、わたしの評価にもつながるんだからね!」
「了解でーす」
待たせていたタクシーに戻る二人をエレベーターまで見送り、もう一度お礼を言おうとしたら、福山さんに「朔哉をよろしく頼むね」と念を押された。
「朔哉は、酒に弱い方じゃないけれど、そんなに好きでもないんだよ。いつもは勧められても酔うほどには飲まないんだ。でも今夜は、飲まずにはいられなかったみたいで。だからさ……」
彼が何を言いたいのか、みなまで聞かなくともわかった。
「大丈夫です。幻滅はしませんから。朔哉の中身がイケメンじゃないってことは、初対面の時から知ってるので」
イケメンで、御曹司で、副社長で。
そんな朔哉の外側だけしか知らない人からすれば、お店で泥酔して、膝枕で寝ている姿を見たならば、イメージとちがうだの、そんな人だとは思わなかっただのと言うかもしれない。
でも、わたしが知る朔哉は、見た目どおりの「イケメン」ではない。
みっともなく酔っ払い、失敗しても、イメージが変わるなんてことはなく、朔哉は朔哉だ。
わたしの言葉を聞いて、福山さんはホッとしたようだ。
「ははっ! いや、そうだよね。そうじゃなきゃ、朔哉がこんな風に気を許さないか。うん、杞憂だったね。それじゃあ……朔哉と仲良くね? おやすみ、偲月ちゃん」
「おやすみなさい」